検索

【冬のオンライン特別講座】「ちょうどいい“味”と”まち”」~木村武志先生~


「あなたの「ちょうどいい」が、きっと見つかる、廿日市」


木村武志さん(以下、木村さん)の画面の左端に映るのは、おしゃれなビール瓶。「いくらクリスマスが近いからって、昼間からビール飲みながらは・・・」などと無粋なことを考えていたら、なんと木村さんが企画・開発した「さいきBEER(ビール)」(それもちゃんと空瓶)。広島市で長らく過ごしてきた木村さんが、巡り巡ってたどり着いた廿日市市・佐伯地域とさいきBEERづくり。そこをたどっていくと、廿日市市という土地の魅力が自然と浮かび上がってきました。



■“ちょうどいいまち”を求めて

木村さんが今暮らしているのは、廿日市市の中でも山間部にある佐伯地域ですが、出身地でもなく、特に親類などいたわけでもないそうです。元々、広島市内の中心部で生まれ育った典型的な「街育ち」でしたが、28歳を迎える頃、街の中でこのまま暮らすイメージができず、田舎暮らしをしたいと考え、山深い島根県匹見町に移住されました。未経験でしたが農業をしたいと、町役場に相談。研修などを受けながら取り組まれたそうです。それ以外にも、自然派の生活がしたいと、薪(まき)のお風呂に入り、自分で家を改修するなど、自分の思い描く暮らしを叶えていきます。「コンビニまでは片道40分の、いわゆる過疎地域でしたが色々な経験ができて暮らしは楽しかったです」との感想に充実感が漂っていました。


3年前頃、そろそろ広島の近くに戻ろうと思い、新たな移住先を探し始めた木村さん。家族が増えましたが、広島市内中心部には戻らず、自然も残っていて、病院などにも通える場所を探したのが、今の佐伯地域でした。「広島市内の都会を体験し、匹見町の厳しい自然を体験した上で広島に帰ってきて、いろいろある中で選んだのが、佐伯だった。」の木村さんの一言で、(失礼ながら急に)佐伯地域への関心が高まりました。


評価のポイントは4つ。1つ目は子どもの数。匹見町では、保育園の同級生が4人で小学校が複式学級だったので、次に引っ越すときには1学年1クラスはあるところに行きたいと考えていたそうです。また、地域にスーパーなどがあり、地域内で生活が完結できるというのが2つ目のポイント。3つ目は、匹見町は山陰で山が深く、日照時間が少なかったので、次は陽当たりがいい場所がいいと考えており、4つ目が、広島の街中に1時間くらいで行ける場所。


そうやって場所を探していたら、自然と「ここしかないな」となったそうです。絶対的な便利さを求めるのではなく、田舎の暮らしは維持しつつも、子どもたちもちゃんと生活しやすいと考えていくと、ここは暮らしやすさがある場所なんです。(木村さん談)

木村さんはこうして自分に「ちょうどいいまち」を見つけたのでした。



■さいきBEERづくり、ちょうどいい味づくり。

佐伯地域に移り住んでからは、地域支援員として活動された木村さん。地域支援員というのは「地域の中で、地域の人と協力して、地域おこしをするのが仕事」だそうで、匹見町でやっていた農業経験を生かして活動を行う事になりました。


農業の活性化にどう取り組むか。その中で注目したのは、耕作放棄地の問題でした。耕作放棄地とは、草が多くなったりして、農耕が続けられない状態の田畑などの土地のこと。この問題に対して、耕作意欲を上げていければ解決すると考えました。そこで、耕作意欲に関する3つの課題を設定しました。


(1)地域の人が穀物類〜大麦の栽培などによって農地を管理する手間を減らす。

(2)管理の手間を減らした上で、加工品への原料出荷によって、農作に対しての利益を増やす。

(3)バトンを渡せる相手がいるようにする。(地域内部の耕作意欲を回復しても、高齢化でできないとなったり、バトンを渡す相手がいないと、続けることが難しくなる)


そこから、「耕作放棄地で大麦を栽培してビールをつくる。ビールが売れることで、農地保全につながる仕組みをつくる」と考え、生まれてきたのが「さいきBEER」だったのです。麦類は、農地全般にまけて農地管理の手間が省ける可能性が高く、企画した2年前はまだクラフトビールも今ほど出回っておらず、クラフトビールという話題性を通して、地域外のまだ見ぬバトンを受け取ってくれる(かもしれない)若い人に地域をPRできればと考えたからでした。


しかし、地域の皆さんに「地域のビールをつくりたい」と伝えると、「クラフトビールはおいしくないで」と言われて出鼻をくじかれてしまいました。地域のためにするのに、地域の人に理解を得られなければダメだと思い、どうやったら受け入れてもらえるかなと考えた結果、一般既製品のビールとは違うと思ってもらうことが大事だという考えに至りました。ラガーやエールタイプではなくヴァイツェンという種類を選び、レモンを添加することでクセがなくなり、ビールがあまり好きでない人、苦手な人でもスッと飲みやすい味のクラフトビールができあがりました。


もちろん、このさいきBEERを生み出す過程では、地域の皆さんにも、試飲していただきました。都会でたくさん売れるようにと、地域の個性を出して、いかにエッジを利かせるかが大事とよく言われる中で、「地域の人に愛してもらわないと意味がない」と考えてたどり着いた、さいきBEERの味。地域の皆さんから、次第に愛着を持ってもらえるようになったと、木村さんは言います。

地域の人の「ちょうどいい」が溶け込んだこのクラフトビールは、何よりも佐伯らしい味を醸し出しているのかもしれませんね。



■次へのバトンを渡すということ

地域支援員の3年の任期が終わり、開発したさいきBEERは今、佐伯商工会の青年部が引き継いでいます。農地保全を推進するために木村さんが取り組んだクラフトビールづくり。今はそのバトンを他の人に渡したという話を聞いていると、「本当に大切なことであれば、バトンを受け取ってくれる人はきっといる。」そんな、相手は見えなくても信じることの大切さも教えてもらったような気がします。



■あなたにとってのちょうどいい廿日市市

物事は急速に変化することはないけれど、無理なく気長にやっていきたい、自分で自分なりのライフスタイルをつくりたい人には、廿日市市の海や島から街に山にといったグラデーションのどこかに、あなたをちょうどいい感じで受け止めてくれる場所がありそうです。木村さんの「ちょうどいい」お話は、そういった思いに自然とさせてくれました。

レポート:岡本泰志